小説

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 21

《第四章 蒼穹》 Grow Old With Me はじめは筆談でよく洋子に語りかけた。とりとめもないことや好きな人はいないのかとか。洋子は、このまま会社人生を全うできればそれでいいと答えるだけだった。「啓子が困ったら笹岡さんに相談しなさいだって。社長の俺が…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 20

《第三章 瓦解》 虚無(きょむ) 今までどんな困難なことがあっても、必ずアイディアを出して一人で乗り切ってきたはじめであったが、病気の後は弱気で突き進む力が無かった。そんなはじめの状態が経営成績にも顕著に現れた。荻窪営業所を手放したことが相当堪…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 19

《第三章 瓦解》 寂滅(じゃくめつ) 1997年から1998年にかけて金融機関の破綻が相次いだ。バブルの清算が本格的に始まったのだ。金融ビッグバンも同時に起き護送船団方式が事実上崩壊した。タクシー業界には逆風が吹いていたが、現金商売であるがために売上減…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 18

《第三章 瓦解》 玉響 (たまゆら) 1996年この年は、不幸が二つ重なった。それは、はじめの母あきなと洋子の祖母が相次いで亡くなった。この時ばかりは、はじめも落胆し仕事に身が入らなかった。納骨が終わった後はじめは洋子を連れて熱海日金山霊園に再びや…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 17

《第三章 瓦解》 開闢(かいびゃく) 1994年、フェニックスタクシーの業績は下降線をたどる一方だった。既に100億円を超えていた売上高は80億円台になっていた。フェニックスプロモーションは、一円たりとも売上を計上することなく、ただ経費の垂れ流しが続い…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 16

《第三章 瓦解》 永劫(えいごう) はじめはしばらくの間は、聖路加病院に入院しリハビリを受けた。上手く言葉が出てこないことにもどかしさがあった。何かがつかえて出てこないのだ。懸命に、思い浮かぶことを言葉に出しきろうと思い、通じる言葉になるまで言…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 15

《第二章 時代の流れ》 哀哭(あいこく) 1990年年始から不穏な動きがあった。それは、大発会から株価が暴落しはじめたからだ。大納会で史上最高値を付けたにも関わらずだ。これは完全に予期せぬ事態だった。これから日本経済に起こることを暗示していた。 は…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 14

《第二章 時代の流れ》 無偏(むへん) 1989年3月、相変わらずタクシー業界にとって3月、4月は書入れ時だった。稼働率は90%を超えとにかく順調すぎるくらい順調だった。はじめは、とにかく会社の成長の種を見つけるために四苦八苦していた。業種を超えた会合に…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 13

《第二章 時代の流れ》 回想(かいそう) 洋子の祖父であり、はじめの父親の悟といっしょに朝鮮半島から日本へ逃げてきた笹岡一郎は、悟と別れてからすぐ佐世保の海軍病院で、マラリアに罹患してこの世を去った、1945年9月のことであった。遺体は、昭島市の実…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 12

《第二章 時代の流れ》 和衷(わちゅう) 1989年は日本経済が世界最強を謳歌していた年だ。ジャパンアズナンバーワンと言われ二度のオイルショックからも立ち直り、高度経済成長がもたらされた時代から黄金の1980年代に突入する。ハイテクブームからバブル経済…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 11

《第二章 時代の流れ》 座標(ざひょう) 仁川広域市から戻った二人はどこかぎこちなかった。あまりにも近すぎたのだ。しかし、洋子から聞かされた親父の思いが業界で孤軍奮闘している自分に愚かさを感じさせた。そして人の言葉に惑わされることなく信念を貫き…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 10

《第二章 時代の流れ》 傍流(ぼうりゅう) 1987年はじめと啓子の間に待望の男の子が産まれた。名前は直久にした。まっすぐに生きてほしいという願いから付けられた名前だ。会社の全体の売上高も100億円を超えていた。フェニックスタクシー史上最も安定してい…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 9

《第二章 時代の流れ》 凶夢(きょうむ) 1986年になると金融機関の融資攻勢が一段と鮮明になってきた。特にタクシー会社は土地を持っているので担保に取りやすかった。はじめのところにもかつてのメインバンク東部信用金庫の支店長が何度も融資のお願いに来た…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 8

《第一章 はじまり》 万慮(ばんりょ) 本社も設立され人手が足りなかった。そこで新聞の求人広告に本社総務事務担当で募集することにした。たくさんの応募があったが、はじめが欲しいと思うような人材の応募はなかった。そんな時、高円寺営業所の方に募集看板…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 7

《第一章 はじまり》 寸意(すんい) 1984年、フェニックスタクシーはハイヤー50台分を含めて保有台数が607台になっていた。銀行借入残高も30億円を超えていた。そして、はじめがはじめたもう一つの事業、ワイン事業も急ピッチに進められていた。 はじめは、ワ…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 6

《第1章 はじまり》 匕首(あいくち) 1980年12月31日までに、妻あきなを喪主に悟の告別式と火葬を終えた。すべてが慌ただしく行われ悟の人生を表しているようであった。 年が明け主人のいない岩城家は静まりかえっていた。そして、今後のフェニックスタクシー…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 5

《序章》 徒花(あだばな) 1972年、ある政治家による政策綱領「日本列島改造論」が発表されると土地の価格が大幅な上昇を見せた。これにより急速なインフレーションも起きていた。翌年には第四次中東戦争が勃発し便乗値上げが起こり更なるインフレーションが…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 4

《序章》 黎明(れいめい) 勝又洋 作 個人のブローカーを通して、高円寺の地主が土地を売りたがっているというのを、悟は聞いていた。騙されたくはないので、役所で「土地台帳」から所在地、地積、所有者を入念に調べた。聞いていた話と違いはなかった。現金…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 3

《序章》 叛意(はんい) 終戦後、日本はGHQの支配下に置かれ、徹底的に民主主義化と非軍事国家へと改革を迫られていた。それは、財閥解体*1、農地改革*2、普通選挙法*3、日本国憲法の制定*4、教育基本法の制定*5。 B29の空爆を受けて、日本の鉄道網は壊滅的打…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 2

《序章》 胎動 勝又洋 作 悟は、仕事を探さなければならなかった。ほとんど日本語は使えなかった。佐世保にある大手造船会社の九州重工業(株)で募集しているのを知った。なんとか潜りこんで生活しなければならない。当時は国籍とか問題にされることはなか…

小説「暗転」~帝王が愛した女~ 1

《序章》 脱国 日本名、岩城悟は1930年北朝鮮で生まれ、第二次世界大戦が終結しかけている1945年8月、北緯38度線付近にいた。後にソ連と米国で朝鮮半島が分断され、全く違う思想により本当の境界線になる歴史的な場所に。元々、朝鮮半島は、南より北の方が豊…